ステップ2:斜面変状の候補を抽出する

1.はじめに

先のステップで、斜面変状を抽出するためのSAR干渉画像を用意しました。

このステップでは、SAR干渉画像から斜面変状を抽出します。

 

2.斜面変状の抽出

 先の「SAR干渉画像を探す」で説明したとおり、SAR干渉画像は電子国土上で図1のように表現されています。

 

 図1 電子国土上に表現されたSAR干渉画像

 

  全体的には水色や青のところが多くなっていますが、注目すべきは周囲と色が異なるところです。

  図1の範囲でも周囲と色が異なっているところがありますが、目立つところとしては赤丸(七五三掛周辺)や白丸(月山周辺)などがあります。

  周囲と異なった色がついているのは、2つの時期の間に衛星から見た地表の状態が変わったことを意味しています。例えば以下のようなケースが考えられます。

1)衛星と地表との位置関係が微妙に変化し、地表におけるレーダーの反射の仕方が変わった

2)水蒸気量の変化など大気の状態が変わった

3)地表改変や積雪・融雪等により地表の状態そのものが変化した

4)地殻変動や地すべり等により衛星と地表の間の距離が変化した

5)干渉処理でノイズが除去しきれずに残った(例えば画像全体にわたる縞模様のようなものが見える場合があります)

抽出したいのは4)のケースなのですが、残念ながら多くの組合せではそれ以外の要因が影響し抽出を阻害しています。

国土地理院干渉SARのホームページで公開されているものは、衛星と地表の間の距離変化を示すとみられるSAR干渉画像に限定していますので、組合せは限られていますが、通常だったら必要となる多くの利用に適さないSAR干渉画像を除去する作業が済んでいる状態のデータですので、利便性は高いと考えます。

 

図1に話を戻しますと、色がついているところの例として、左上の赤丸と右下の白丸があることは上に示しましたが、この2つは本質的にかなり異なります。

実は、赤丸の範囲は地すべりに対応しているのですが、白丸の範囲は積雪の影響等によるノイズであり、間違って白丸のようなケースを「斜面変状がある」と間違えないことが重要です。

では、何故そう解釈できるかを示すため、以下に斜面変状ではない発色例を示します。

 

まず、図2ですが、色が縞状にまとまっているところと砂嵐のように乱れているところがあることが分かります。この砂嵐状のところは、2回の観測間の地表状態が変化しすぎたことにより、2回の観測データから同じ場所が抽出できず、衛星と地表との距離変化が算出できないところになります。砂嵐状のところは何らかの変化があったことはわかりますが、斜面変状があったかどうかの抽出は出来ません。

図2 斜面変状でないものの例(非干渉域)

 

次に、図3ですが、2回の衛星の観測位置が全く同じでないことから、2回の観測間において同じ場所がデータ中のどこにあるかは衛星軌道や地形に左右される部分があります。通常は、DEM(数値標高モデル)や衛星位置の情報を用いてそういった問題を解決するのですが、DEMが正しくなかったりすると図3のような地形に沿った形の縞などが出てしまいます。残念ながらこれも斜面変状を見ているわけではありません。

図3 斜面変状でないものの例(地形縞)

 

最後に図4ですが、こちらは一見斜面変状のような変動を見ているように見えますがこれもそうではありません。図の下部にある伊東市付近の変色域(赤丸で示した部分)は地下のマグマによる隆起域に一致するのですが、それ以外のところは水蒸気の影響により見かけ上変動が出てしまっています。良く見ると着色域が地形の段彩のようにも見えますが、水蒸気分布は地形に左右されるため、地形分布に近い傾向の変色域が得られた場合は、斜面変状などではなく2時期の水蒸気分布の違い等を示していると考えられます。

Analysis by GSI from ALOS raw data of JAXA, METI

 

図4 斜面変状でないものの例(水蒸気)

 

先ほどの図1の白丸の領域は図2の「干渉していない」領域に相当し、これは斜面変状ではないということになります。

一方、赤丸の領域は色が揃ってはいないものの、赤や黄色が卓越しており、白丸の領域のようにあらゆる色が混在して砂嵐状に発色しているところとは傾向が異なりますし、南南西に向かって下がる地形の傾向と関係なく発色が見られるので、少なくとも図2〜図4のような斜面変状を排除するパターンには当てはまらなさそうだということになります。

 

今度は、斜面変状を明瞭に捉えた例として図5に秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像を示します。

図5 秋田県東成瀬地区における狼沢地すべりに対応したSAR干渉画像

 

 赤の楕円の中で紫や黄色に変色した場所が、滑動した地すべりブロックに対応しています。図1の七五三掛の場合ではノイズが残ってしまっているためあまり綺麗に見えていませんが、そうしたノイズがなければ図5のような縞模様が見えます。高いところが黄色で低いところが紫などに見えますが、その範囲がせいぜい1km四方の範囲に収まっており、南西―北東方向の同様の標高を持ったところに続かないことから、地形の影響ではなく斜面変状のような局地的変動があったと推定できます。

 縞模様の解釈はステップ3で説明しますが、図2〜4のようなケースに該当せず、図5のように地形に関係なく縞模様が見られたときは、斜面変状を疑う候補になります。

 

 ちなみに、図5からはもう一つの情報が得られます。それは、赤丸以外のところは衛星と地表の間の距離変化がなかったと推定されるということです。図5のように赤丸の場所で綺麗に干渉縞が見えているにもかかわらず、周囲はほぼ水色で落ち着いているというのは、この時期に赤丸以外の範囲に衛星と地表の間の距離変化がなかったことを意味します。例えば、継続的に活動していた地すべり地が、このように色の変化が見られない状態になれば、その場所は安定しつつあるという情報を与えることになります。

(※ ここで、あえて「変動しなかった」ではなく「距離変化がなかった」と表現した理由は、例えば西の空上空にある衛星に対して地表が西に向かいつつ沈降した場合を想定すると、西に向かう動きは衛星に近づきますが、沈降する動きは衛星から遠ざかるため、これが打ち消し合ってゼロになるケースがありえるからです。ただ、変動がなかった場合には、北行と南行の両方の観測方向で確認を行えばともに変状が出ないことで確認可能ですので、そうすることで「変動そのものがなかった」とより踏み込むことができます。)

 

 これで、プロセス1「既成のSAR干渉画像により斜面変状が発生している可能性のある場所を探す」は終了です。

 今後監視対象とすべき斜面等を抽出する際の参考情報が得られれば十分という方は、以下からマニュアルのトップページにお戻りください。

 

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今後監視対象とすべき斜面等を抽出する際のより詳細な情報を得たいという方については、

プロセス2「プロセス1で抽出した斜面変状について、信憑性の評価、移動の方向等の情報を得る」に以下からお進みください。

 

プロセス2:「プロセス1で抽出した斜面変状について、信憑性の評価、移動の方向等の情報を得る」

 

*1 表示されているSAR干渉画像は全て次によるものです:Analysis by GSI from ALOS raw data of JAXA, METI