オプション1:SAR干渉画像を作成する

1.はじめに

ステップ1では既存のSAR干渉画像を用いた斜面変状の抽出を扱いましたが、アーカイブにないものは抽出できませんので、任意の地すべり等を確認したい場合は、自らSAR干渉画像を作成しなければならないケースが必然的に出てきます。

ここでは、SAR干渉画像を作成する場合について参考となる情報を示します。

 

2.SARデータの選択

 SAR干渉画像を作成するには、干渉SARの仕組みのHPにも示されている通り2つ以上の同一方向の観測データが必要となります。ただ、どういう組合せのデータでも上手く行くわけではありません。経験的に以下のような要件があることが分かっています。

 1)観測間の地表から見た衛星の位置が出来るだけズレないこと

それぞれの観測の間で地表から衛星を見たときにほぼ同じ場所にあることが必要です(1回目と2回目で地表から見た衛星位置がほぼ延長上にあれば遠くても近くてもかまいませんが、衛星位置が延長上から大幅にずれると干渉処理が上手く行かなくなります)。ALOS/PALSARの場合、例えば2回の観測なら、1回目と2回目で地表から見た衛星位置が500m以内のズレなら良好であり、1km以内なら何とか干渉処理が出来る場合が多いですが、1kmを超えてしまうと衛星から地表に向けて発射したレーダーの反射の仕方が無視できないほど変わってしまうため、干渉処理は上手く行きません。

2)時期があまり離れすぎないこと

例えば地すべりの監視の場合は積雪・融雪のサイクルを含むことが望ましいですが、ALOS/PALSARの場合、1年間隔で適当な組合せのデータが得られる場合はあまりありません。そのため、2年、3年などのより長い間隔の組合せを選ばざるを得ないことが多くありますが、間隔があいてしまうと改変等により地表状態が変わってしまう部分が多くなるため、衛星と地表の同一地物との関係を比較するという前提が崩れてしまう可能性が高まります。

 3)積雪期など地表状態が異なる場合のデータは避けること

例えば、「SAR干渉画像内に積雪域があっても、見たいのは雪のない部分」ということであれば良いですが、監視対象とする場所に積雪があると地表でのレーダーの反射の様子が変わってしまうため、干渉処理が上手く行きません。また、Lバンド(波長約2030cm)のように波長が長い場合はほぼ問題ありませんが、Xバンド(波長約3cm)やCバンド(波長約56cm)のように波長が短くなると、樹木の着葉の有無なども反射の様子を変えてしまうため、干渉処理を失敗させてしまいます。ALOS/PALSARは運用を停止しましたので、過去のアーカイブの解析であればLバンドによる観測データを使えますが、今後ALOS-2の打上げまでの間はTerraSAR-XRADARSATなどXバンドやCバンドのセンサーを衛星等に搭載したものが中心となるため、樹木の影響をより受けやすい山間部等の解析は困難になると思われます。

その他にも、水蒸気の局地的分布など他の要因も影響を及ぼしますので、例えば集中豪雨が発生しているような時期のデータも適当ではありません。もっとも、そうした情報が事前に得にくい場合でも、とりあえずSAR干渉画像を作成すれば、不適当なものは除外できますので対応は可能です。

 

3.SAR干渉画像の作成

 SAR干渉画像の作成は、生データの情報を元に自ら処理用のプログラミングを行うことも可能ですが、干渉SARに係る原理的な部分も含めて極めて高度な知識・技術に精通していなければなりません。SIGMA-SARGammaSARなど汎用的に用いられているソフトウェアがありますので、それらを使うのがより近道ではあります。

前者はJAXAの島田氏が開発したものでありJAXAとの共同研究者等にのみ配布されているようです。参考文献は「M.Shimada,Verification processor for SAR calibration and interferometry, adv. Space Res. Vol.23, No.8, pp.1477-1486, 1999.」となっています。後者は、スイスのガンマ社が発売しているものでこちらは一般に市販されております。(http://www.opengis.co.jp/htm/gamma/gamma.htmなどに情報有)。

SAR干渉画像の再生法の説明はそれぞれのマニュアル等に譲りますが、SARデータの干渉処理に係るソフトウェアの利用に際しては、SAR技術に係る最低限の知識があることを前提にしておりますので、国土地理院の干渉SARHPなどで事前に学習しておくことをお勧めいたします(*3)

 

国土地理院の干渉SARホームページ(干渉SARを知る)」

 

 SAR干渉画像のアーカイブ収集と再生が行えたら、あとは斜面変状の抽出等に移ります。以下のリンク先をクリックして先に進んでください。

 

 ステップ2:「斜面変状の候補を抽出する」に進む

 

*1 電子国土上でSAR干渉画像を表示するには電子国土WebシステムプラグインをPCにインストールする必要があります。また、本マニュアルではInternet Explorer 6以降の使用を想定していますが、それ以外のブラウザでもSAR干渉画像を電子国土Webシステム上で見ることは可能です。詳しくはhttp://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/sar/result/geotiff_cyber/caution.htmlをご覧ください。

*2 表示されているSAR干渉画像は全て次によるものです:Analysis by GSI from ALOS raw data of JAXA, METI

*3 その他「資源探査のためのリモートセンシング実用シリーズD 合成開口レーダ 財団法人 資源観測. 解析センター(ERSDAC)編」などの書籍も参考になります。